2021年度各賞受賞者一覧

このページの目次

学会賞

ペプチド・タンパク性医薬品をはじめとする難吸収性薬物の消化管・経粘膜吸収性の改善方法の構築ならびにその吸収改善機構の解析
山本 昌(京都薬科大学薬剤学分野)

 山本 昌博士は、ペプチド・タンパク性医薬品を含む難吸収性薬物の消化管・経粘膜吸収の改善法構築とその機構解析に優れた研究成果を挙げてきた。その具体的な内容として、吸収促進剤やタンパク分解酵素阻害剤など製剤添加物による改善、脂肪酸修飾やオリゴアルギニン修飾など化学修飾による改善、キトサンカプセルやアゾポリマーを用いた臓器特異的送達、新規経肺投与形態の開発などペプチド・タンパク性医薬品を主な対象とした研究をはじめ、生体内分解性マイクロニードルを用いた経皮吸収の改善、新規吸収促進剤による吸収促進機構の解明、製剤添加物による薬物排出輸送担体制御による吸収改善、鼻腔内投与による脳移行性の改善など、極めて多岐にわたる。これらは、原著論文259報をはじめとする多くの著書、総説、特許等に報告されるなど、優れた業績を挙げている。一方で、本学会において長年にわたり評議員・代議員、各賞選考委員や選考委員長を歴任したほか、2022年の年会長を担当するなど、本学会の発展に多大な貢献が認められる。以上は、薬剤学、製剤学、製剤技術並びに医療薬剤学の発展に関し卓抜した業績と考えられることから、選考委員会において全会一致で選出した。

功績賞

金 淳二(立命館大学総合科学技術研究機構)

 金 淳二博士は、製薬企業研究者として30年以上にわたり製剤研究に従事するとともに、企業、大学、病院の垣根を超えた連携を推進することで、本学会および薬剤学の発展に顕著な貢献を行ってきた。具体的には、本学会における制度改革担当理事として、公益社団法人としての学会運営体制の基盤構築や事務組織の職務・雇用体制を整備し、現在の学会運営の基盤を確立した。また、PVMフォーカスグループを立ち上げ、小児製剤に関する課題を掘り起こし、企業研究者と病院薬剤研究者との連携を推進した。さらに、病院薬剤部での臨床薬剤現場研修を主催し、企業に対する本学会の認知度と存在価値を示した。一方で、大学研究者との共同研究プロジェクトの構築にも貢献し、「医薬品の経口吸収評価に関する検討会」(摂南大学)、「マイクロドーズ臨床試験の活用に関するプロジェクト」(東京大学)、「創剤研究コンソーシアム」(立命館大学)の推進に大きく貢献してきた。以上は、薬剤学、製剤学、製剤技術並びに医療薬剤学の振興に関する顕著な貢献であると認められることから、選考委員会において全会一致で選出した。

奨励賞

免疫系細胞への核酸ワクチン送達を目的とした標的指向型微粒子製剤の開発
黑﨑友亮(長崎大学生命医科学域(薬学系))

 黑﨑友亮博士は、遺伝子・核酸医薬品を対象とした標的指向型微粒子製剤の開発研究を中心に薬物動態や新製剤に関する研究を行ってきた。具体的には、微粒子複合体の成分として臓器特異的な標的化が可能な N-lauroylsarcosine, glycyrrhizin, γ-polyglutamic acid 等を新たに発見し、これらが免疫系細胞に効率良く取り込まれることから感染症核酸ワクチンへの応用を試み、マラリア抗原をコードしたDNAを用いたワクチン製剤を開発した。また、現在流行中のCOVID-19に対するワクチン開発を進めるなど精力的な研究活動を継続中であり、将来性も見込まれる。欧文原著35報のうち同氏が筆頭著者の論文が16報あることからも、自身の主体的な研究活動が裏付けられる。本学会においても英語セミナー委員会委員として活動するほか、年会で多くの発表を行い Postdoctoral Presentation Award を受賞するなど、学会発展にも貢献しつつある。以上より、同氏は、薬剤学、製剤学、製剤技術並びに医療薬剤学の基礎及び応用に関し、独創的な研究業績を挙げつつあるとして、選考委員会において全会一致で選出した。

薬剤科学的技術を応用した機能性微粒子設計による薬物の経口吸収制御
佐藤秀行(静岡県立大学薬学部)

 佐藤秀行博士は、異分野技術を製剤開発に積極的に応用する薬剤学研究を行っている。具体的には、インクジェットプリンタヘッドを微粒子設計デバイスとして応用することで、固体分散体や放出制御微粒子等を製造し、薬物の経口吸収制御が可能であることを示したことや、析出法の一種である Flash Nanoprecipitation 法により粘膜付着性ポリマーや粘膜透過性ポリマーによる表面コートを施した薬物封入高分子ナノキャリアの開発に成功している。さらにこの技術を、中分子や核酸、抗体医薬等に応用し、モダリティの経口製剤開発を目指す研究を展開するなど独創的な成果をあげつつあり、将来性も見込まれる。欧文原著54報(うち同氏が筆頭著者の論文10報)、特許6件等の優れた研究成果をあげている。本学会においても、複数のFGでの講演や年会組織委員としての活動、年会での多数の発表や学会機関紙への寄稿など活発に活動しており、学会発展にも貢献しつつある。以上より、同氏は薬剤学、製剤学、製剤技術並びに医療薬剤学の基礎及び応用に関し、独創的な研究業績を挙げつつあるとして、選考委員会において全会一致で選出した。

ナノ粒子に対する免疫応答を逆手に取ったワクチン開発
清水太郎(徳島大学大学院医歯薬学研究部)

 清水太郎博士は、PEG修飾ナノ粒子に対する免疫応答メカニズムの解明に関する薬剤学研究を行っている。具体的には、PEG修飾リポソームに対する免疫応答機序の解明研究を行ってきた中で、初回投与されたPEG修飾リポソームによって脾臓の辺縁帯B細胞が活性化され、続いて投与された抗原封入PEGリポソームが辺縁帯から濾胞に輸送され抗原特異的免疫反応を増強することを見出した。さらにこの免疫応答に関する知見を発展させ、辺縁帯B細胞を標的としたワクチン開発を着想し、臨床応用を目指す研究を行っているなど、独創性があり将来性も見込まれる。これらの成果は欧文原著47報(うち同氏が筆頭著者の論文9報)や14件の国際学会発表(うち4件が招待講演)にまとめられるなど、優れた研究業績が認められる。本学会においても英語セミナー委員や年会実行委員をはじめ、年会での多数の発表や学会機関紙への寄稿など活発に活動しており、学会発展にも貢献しつつある。以上より、同氏は薬剤学、製剤学、製剤技術並びに医療薬剤学の基礎及び応用に関し、独創的な研究業績を挙げつつあるとして、選考委員会において全会一致で選出した。

タケル&アヤ・ヒグチ記念栄誉講演賞

—当期設定なし—

タケル&アヤ・ヒグチ記念賞

小暮健太朗(徳島大学大学院医歯薬学研究部)

 小暮健太朗博士は、物理化学的・薬剤学的側面から様々な研究に従事され,特に多機能性エンベロープ型ナノ粒子MENDの開発や、イオントフォレシスを用いた高分子・ナノ粒子の経皮送達システムに関する研究を推進するなど、顕著な研究成果を挙げられている。本成果は海外でも広く認知されており、DDS研究における日本発の重要成果のひとつと言っても過言ではない。また、フォーカスグループ担当理事や年会の組織委員、シンポジウムのオーガナイザーとして日本薬剤学会の運営にも積極的に従事されている。このような優れた研究業績と学会への高い貢献度から、同氏は本賞受賞者にふさわしい人物であると判断した。

旭化成創剤開発技術賞

組織透明化・多色3Dイメージング技術と複数の薬物・タンパク質・遺伝子を搭載可能なナノ粒子調製法の開発
麓 伸太郎(長崎大学生命医科学域(薬学系))

 麓 伸太郎博士の研究は、ワンステップで複数の薬物・タンパク質・遺伝子を封入したナノ粒子を開発し、相乗的に抗腫瘍効果を高めることを目的とする。同氏はまず炭酸カルシウムを主基材としてワンステップで薬物・タンパク質・遺伝子を搭載するナノ粒子(直径約130nm)の新規調製法(エタノール注入法)を開発した。また同法を用いてパクリタキセル及びスーパーオキシドディスムターゼを含有するナノ粒子を単がんマウスに静注することにより、抗腫瘍効果が高まることを見出した。エタノール注入法はマイクロ流体工学を応用しているため、GMP基準での大量生産が可能と期待される。以上、同氏の研究は抗腫瘍治療効果を高めることへの貢献が期待され、また創剤の見地からも高く評価されることより、旭化成創剤開発技術賞に値すると認められる。

旭化成創剤研究奨励賞

Nose to brain drug delivery を利用した経鼻投与型製剤開発に向けた研究
井上大輔(立命館大学薬学部)

 近年鼻腔から脳への薬物送達を目指した Nose to brain drug delivery が注目されているが、井上大輔博士の研究は本経路による薬物送達のメカニズムを解明し、経鼻製剤開発に貢献しうる高精度の経鼻吸収予測システム構築を目的としている。特に同氏が構築した脳部位別分離評価を用いた脳内動態評価法は脳内各部位への薬物送達を定量的に評価することを可能にし、その結果薬物の物性と脳内送達との関係など多くの知見を明らかにしている。また同氏は本システムの実用化に向けた経鼻製剤開発に関する検討を継続的に行い、経鼻投与製剤の処方最適化を目指した研究も実施している。 以上、同氏の研究は経鼻投与製剤の最適化による新たな中枢系疾患治療法の開発に貢献することが期待されることより、旭化成創剤研究奨励賞に値すると認められる。

旭化成研究助成金授与

SYNBRID® 技術を用いた口腔内崩壊錠の製剤設計とプレガバリンOD錠の開発
山﨑淳治、大西治正、井上勝久(全星薬品工業株式会社)

 苦みを有する薬物を含有する口腔内崩壊錠(以下OD錠)の開発においては、ショ糖等により形成される核粒に薬物をローディングした後苦みマスキングを施す微粒子コーティング法が汎用されるが、高含量を必要とする薬物には応用しにくいとの課題が存在した。かかる課題に対し、申請者は噴霧乾燥により原薬を用いて球形薬物粒子を調製する技術を開発することにより(SYBRID® 技術)、既存技術と比較してより高い薬物含量を有するOD錠製剤化を可能にした。この後本技術をプレガバリンOD錠に応用するとされている。また今後、ますますOD錠の需要は高まるものと予想されるが、本技術は汎用性が高く、多くのOD錠開発に応用されることが期待される。一方、本技術を用いたOD錠における機能で重要となる錠剤強度、苦み抑制効果やザラツキ等を考慮した官能性に対する評価については不明であり、今後更なる検討が望まれる。こうした背景を鑑みて、本申請は更なる研究の助成に値するものとした。

永井記念国際女性科学者賞

Catherine Duggan, Ph.D.(International Pharmaceutical Federation)

 Duggan 博士は、University of London を卒業後、Royal Free and Whittington Hospitals での実務研修を経て1998年にPhDを取得した。その後、実務とアカデミアの両方で研鑽を積み、2010年より英国 Royal Pharmaceutical Society において薬事、教育、研究に関わるさまざまな業務のチームリーダーとして貢献した。また同氏は、2018年より会員数400万人を抱えるFIPのCEOとしてリーダーシップを発揮しており、専門薬剤師の制度設計やそのサポート、規準やガイドラインの策定、教育、研究等におけるリーダーかつマネージャーとして国際的に活躍している。一方で50を超える原著論文執筆をはじめ、100を超えるガイダンスや reference guide 作成に貢献するなどの功績も認められる。以上、同氏の国際的な活躍、学術への貢献、研究業績等を鑑み、今後の女性研究者の目標となる研究者であると判断した。以上の理由により、選考委員会において全会一致で選出した。

優秀論文賞

Impact of degree of supersaturation on the dissolution and oral absorption behaviors of griseofulvin amorphous solid dispersions
Kohsaku Kawakami*, Kyosuke Suzuki, Masafumi Fukiage, Maki Matsuda, Yohei Nishida, Michinori Oikawa, Takuya Fujita
J. Drug Deliv. Sci. Tech., 56, 101172 (2020)

 非晶質固体分散体を用いた時の消化管吸収性向上に薬物の過飽和溶解度挙動が重要であることは知られているが、それらの系を反映させた in vivo での吸収性を予測することは困難であった。本論文は、非晶質固体分散体を水に分散した後の薬物過飽和度が溶出プロファイル及び経口吸収性に与える影響を評価している。難溶性非晶質固体分散体製剤について、溶出性と経口吸収性の相関を示す飽和度の異なる溶出試験条件を見出し、in vivo 吸収性を予想するためには、薬物過飽和度,pHシフト、界面活性剤添加を考慮した in vitro 溶出試験が重要であると結論付けている。優れた理論構築がなされており、吸収率予測に対して,非晶質固体分散体中の薬物とポリマーの相分離濃度が重要な因子となる新しい指標を示した。これらの知見は、今後の固体分散体の製剤設計に寄与するものと考えられ、実製剤への応用性が高い優れた論文であると判断した。

Solution-mediated phase transformation at particle surface during cocrystal dissolution
Maaya Omori, Taiga Uekusa, Jumpei Oki, Daisuke Inoue, Kiyohiko Sugano*
J. Drug Deliv. Sci. Tech., 56, 101566 (2020)

 結晶表面における溶液媒介の相変化は知られているものの、分子複合体に関してはその変化を検討している報告は少ない。本論文は、カルバマゼピン共結晶の表面において凝集体や親化合物への速やかな変化を種々の分析装置を用いて検討している。共結晶の溶解過程における solution-mediated phase transition に関して詳細な検討がなされており、共結晶の製剤化において薬物放出速度に関わる重要な評価項目となることから、質の高い優れた論文であると判断した。

創剤特別賞

受賞なし

国際フェロー称号

Catherine Duggan, Ph.D.(International Pharmaceutical Federation)

「薬と健康の週間」懸賞論文

感染症対策において薬剤師に期待すること、薬学の役割

  • 第1席 川喜多佑香(東京薬科大学)
  • 第2席 中川舞奈香(東京薬科大学)
  • 第3席 山田咲良(長崎大学)

製剤の達人称号

  • 佐々木仁(中外製薬(株))
  • 道中康也(久光製薬(株))
  • 権 英淑(コスメディ製薬(株))
  • 赤松 亮(マルホ(株))