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学会賞
遺伝子・核酸医薬品のデリバリーシステム開発
髙倉 喜信(京都大学大学院薬学研究科)
髙倉喜信博士は、これまで一貫して遺伝子・核酸医薬品のDDS開発に関する研究に従事されている。特に、世界に先駆けて非ウイルスベクターとして利用されるプラスミドDNAの体内動態解析に着手されたのは特筆すべき業績といえる。また、昨今では、エクソソームに関して生物薬剤学および製剤学的な研究を進められており、国際的にも高く評価されている。原著論文は既に310報を越えており、その業績は国内外で高く評価されている。本学会では、評議員、常務理事・理事を歴任し、また、「遺伝子・細胞製剤フォーカスグループ」の初代リーダーを務め、年会でフォーカスグループ主催のシンポジウムを企画するなど、学会の発展に多大な貢献が認められる。以上の理由から、選考委員会において全会一致で選出した。
功績賞
渡邊 善照(東北医科薬科大学病院薬剤部)
渡邊善照博士は、私学で一貫して薬剤学教育に従事してこられている。基礎から応用まで多岐に渡る研究に携わられ、特に中空坐剤の開発と臨床応用化、後に多くの企業で口腔内速崩壊錠の開発に繋がる先駆的な研究などが、特筆的な業績として挙げられる。本学会では設立時の発起人の一人として活動を開始され、その後32年間に渡り各種委員会委員及び委員長、評議員及び役員(監事)を歴任されている。さらには、製剤セミナー実行委員長、教育分科会代表世話人を務められるなど、本学会の発展に大きく寄与されている。以上の理由から、選考委員会において全会一致で選出した。
奨励賞
胎児胎盤系の薬剤曝露制御と成長維持因子の研究
西村 友宏(慶應義塾大学薬学部)
西村友宏博士は、薬物や栄養物の胎盤透過機構を中心とした研究を行っている。独創的な成果として、裏打ちタンパク質ezrinの欠損がヒポタウリン欠乏による胎児成長不全を起こすこと、核酸、核酸類縁体薬物、ベタイン等の透過機構を解明したことが挙げられる。留学先で研鑽を積んだ副作用研究を発展させ、臨床で用いられる種々薬物の胎児曝露と副作用との関係解明を目指す研究に発展させつつあり、将来性も見込まれる。英語原著論文36報のうち筆頭が14報あることから、自身の主体的な貢献が裏付けられている。年会学生主催シンポジウムSNPEEの発足当初から委員および委員長として貢献したこと、英語セミナー委員および委員長、代議員への就任など若手研究者の一人として本学会に貢献していることも評価できる。以上の理由から、選考委員会において全会一致で選出した。
機能性ペプチドを基盤とする非侵襲的な核酸医薬DDSの開発
金沢 貴憲(日本大学薬学部)
金沢貴憲博士は、これまで一貫して非侵襲的な核酸医薬DDSの開発に取り組んでおり、最近では免疫疾患を標的とした皮膚・投与型核酸DDS、中枢神経疾患を標的とした経鼻投与型核酸DDSの開発に焦点をあて研究を主体的に進めている。所属教室の教授の交代や、昇進に伴う大学の異動を経ても研究テーマを維持しており、公開論文50報のうち筆頭著者の論文が26報であって、また責任著者の論文が17報あるなど、主体的に研究を展開していることが認められ、今後の発展が見込まれる。薬剤学会の会員歴も13年あり、英語セミナーでの発表や製剤セミナーでの受賞、本年度からは代議員および「薬剤学」の編集委員を務めるなど、本学会への貢献も高く評価できる。以上の理由から、選考委員会において全会一致で選出した。
タケル&アヤ・ヒグチ記念栄誉講演賞
—当期設定なし—
タケル&アヤ・ヒグチ記念賞
尾関 哲也(名古屋市立大学大学院薬学研究科)
尾関哲也教授は、1990年代後半から約20年に渡り、製剤学領域においては、スプレードライを用いた難水溶性薬物ナノ粒子含有マイクロ粒子の開発や固体分散体製剤の開発に関する研究を、DDS領域では、上記マイクロ粒子等を利用した経口吸収性の改善技術や経肺・経鼻投与製剤の開発研究に関して数多くの優れた研究成果を挙げてこられた。名古屋市立大学に教授として着任された2000年以降からは、DDS研究の対象疾患を結核やマラリアといった感染症から、がんや骨再生などにも拡張し、マイクロ粒子(リポソームやマイクロスフェアなども含む)を用いたDDS研究を精力的に展開されている。
また、日本薬剤学会での活動では、長年にわたり評議員を務めている他、2014年度から2期国際担当理事を務め、薬剤学会会員の国際活動・教育の発展にも大きく貢献されている。さらに経口吸収FGや経肺経鼻投与製剤 FG の立ち上げや、本年度開催された日仏DDSシンポジウム実行委員長なども歴任し、本学会に多大なる貢献をされてきた。一方、Kansas大学に留学されたご縁でKansas大学 Department of Pharmaceutical Chemistry 新規施設建設の本邦での寄付委員会事務局を務めるなど、本記念賞に大変縁の深いKansas大学との若手パイプ役としても重要な役割を担っている。このように、20年以上日本の製剤学・DDS領域を先導されてこられた多くの研究業績に加え、日本薬剤学会での大いなる貢献を含めた種々の薬剤学関連の学会活動における功績等も考慮し、本賞を受賞されるのにまさにふさわしい人物であると判断した。
旭化成創剤開発技術賞
OD錠用高機能フィルム技術およびレミッチ®OD錠の開発
太田 琴恵、堀内 保秀、高木 卓(東レ株式会社生産本部医薬CMC技術部)
本研究は、掻痒改善薬レミッチ®(ナルフラフィン塩酸塩)が、当初、軟カプセル剤として開発されたが、患者や医療従事者からの要望が高いOD錠への追加剤形の開発に関するものである。本薬のOD錠化は、その、強い光分解性、高活性、水溶性のため、OD錠化のための水系フィルムコーティングが極めて難しく、OD錠化は、不可能と考えられていた。然るに、候補者らは、伸度の高い、ポリビニアルコール系の樹脂を基準高分子として使用し、特定の水溶性物質を特定量配合して、短時間の乾燥工程を実現して、速溶解性とフィルムの伸度を維持して、コーティング表面の平滑化を達成し、OD 錠化水系スプレー工程の基本技術を確立した。本コーティングにより、低摩損性、遮光性を維持し、加湿条件下での保存安定性に優れ、崩壊速度が、コーティングを施していないものと同等以上であることを実証した。本成果は、患者のアドヒアランスの向上と医療従事者への利便性向上の観点から、社会的貢献度が高く評価される。かかる観点から、本賞の授賞候補者として相応しいと判断した。
旭化成創剤研究奨励賞
数値シミュレーションを利用した吸入粉末製剤の設計と服薬支援に関する研究
門田 和紀(大阪薬科大学)
本研究は、数値シミュレーション(CFD)を利用して粉末吸入(DPI)製剤の気道内における粒子挙動を予測して効率的な製剤設計法を確立することを目的としている。経肺製剤の肺内到達部位と到達率が粒子物性によりどの様に決まるかを空気力学的に明らかにした。その結果、粒子物性としては、粒子径の他、粒子形状、粒子密度が重要パラメータであること、更には、吸入デバイスの空気溜や吸入時の息こらえの影響も明らかにした。研究成果として、薬物の表面物性の影響を受けないDPI の設計、薬物の比表面積を飛躍的に増大させたメソポーラス化DPIの開発に成功している。本コンピュウタシミュレーション法により、DPIの粒子設計だけでなく、デバイスの設計、服薬指導などへの新展開が期待される。以上、本研究は、旭化成創剤研究奨励賞の授賞候補研究に相応しいと判断した。
生体適合性素材の自己組織化による標的化DDS製剤の開発
兒玉 幸修(長崎大学病院薬剤部)
本研究は、臨床側からの新しい視点で、遺伝子・核酸医薬の微粒子(ナノオーダー)製剤開発を行うもので、そのコンセプトは、微粒子DDSにパラダイムシフトをもたらす可能性がある。その手法によれば、医薬品や、サプリメント、生体分解性素材等の既知成分をランダムにスクリーニングし、種々の比率で、疎水的・静電的に自己組織化させてナノ微粒子(ナノボール)を得る。本ナノボールには、成分の違いによって種々の臓器や細胞への指向性能が現れる。種々の疾患モデル動物を用いて本製剤により、高い薬理効果が得られることを示した。候補者の開発したナノ微粒子製剤は、生体適合性が高く、表面がアニオン性のため安全性が高い。本ナノ粒子DDSは、医療用医薬品を組み合わせてDDSを構築する点が従来法と異なる。基礎から臨床への更なる連携強化により、本ナノボールの遺伝子・核酸医薬DDSのプラットフォーム化が期待される。以上、本研究は、旭化成創剤研究奨励賞授賞候補研究として相応しいと判断した。
永井記念国際女性科学者賞(国際フェロー称号の授与)
Shirui Mao, Ph.D. (School of Pharmacy, Shenyang Pharmaceutical University)
Mao教授は、瀋陽薬科大学修士課程を修了後、同大学の勤務を経て、ドイツPhilipps University of Marburgにて博士号を取得している。その後、Philipps University of Marburgでの博士研究員を経て、2006年より瀋陽薬科大学を拠点として世界的な研究を続けている。Mao教授は、薬物放出制御を目的とした高分子素材の開発や、経粘膜薬物送達、ナノ・マイクロサイズの粒子設計という、製剤とDDSの両領域で顕著な功績を挙げている。これまで発表した原著論文は120報以上であり、CRS-Nagai Postdoctoral Research Achievement Awardなどを受賞、中国の薬学関係の学術団体で主要なポストを務めているなど、同分野の代表的な研究者の1人である。Mao教授の研究業績、学術への貢献を鑑み、今後の女性研究者の目標となる研究者であると判断した。以上の理由により、選考委員会の全会一致でMao教授を本賞授賞者に選出した。
優秀論文賞
Time-dependent phase separation of amorphous solid dispersions: Implications for accelerated stability studies.
K. Kawakami*, Y. Bi, Y. Yoshihashi, K. Sugano, K.Terada
J. Drug. Del. Sci. Tech., 46, 197-206 (2018)
難溶性薬物の可溶化は重要な課題であり、その解決手段として固体分散体の調製事例は多い。しかし、安定性に問題があり、製品化を達成した化合物は非常に限られている。本論文では、非晶質固体分散体の保存安定性について報告している。急速凍結法により調製した各種非晶質固体分散体を様々な温度条件下で保存し、薬物と添加剤の相分離を実験的に評価した。その結果から調製直後の混合相のTgが、長期保存後の相分離を予測するための指標として使用可能であることを示した。これらの結果は、今後の固体分散体の実製品化に寄与すると考えられ、優秀論文候補として相応しいと判断される。
A comparative study of disintegration actions of various disintegrants using Kohonen’s self-organizing maps.
Y. Onuki*, A. Kosugi, M. Hamaguchi, Y. Maruo, S. Kumada, D. Hirai, J. Ikeda, Y. Hayashi
J. Drug. Del. Sci. Tech., 43, 141-148 (2018).
錠剤の処方設計において崩壊剤の機能に関する研究事例は多いが、各崩壊剤がもつWickingやSwellingの特性と、崩壊性や錠剤硬度との関係性については添加剤メーカーのデータに基づく場合が多い。本論文では自己組織化マップ(SOM)クラスタリングという新しいアプローチにより、研究者の経験によらず客観的なデータ採取について検討しており、今後広く応用できる可能性を示している。このことから本論文は、優秀論文候補として相応しい内容と判断される。
創剤特別賞
受賞者なし
国際フェロー称号
Shirui Mao, Ph.D. (School of Pharmacy, Shenyang Pharmaceutical University)
「薬と健康の週間」懸賞論文
「薬学部での卒業研究の意義」
- 第1席 髙瀬 理邦(東京大学)
- 第2席 宮城 奈都(星薬科大学)
- 第3席 伊木 亮司(摂南大学)
- 第3席 松尾 瑞帆(東京薬科大学)