2015年度各賞受賞者一覧

選考未了の各賞は随時アップデート致します

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薬師メダル

永井恒司(公益財団法人永井記念薬学国際交流財団理事長)

薬師メダルは薬剤学分野の科学・技術と薬剤師職能を統合したシステム薬剤学に関して,卓抜した業績を有する者として理事会の推薦により授与される賞で,当学会創立30周年を記念して新たに設立されたものです.

本賞は日本薬剤学会が提唱する“薬剤学”の「医薬品を安全に,有効に,かつ使いやすく設計し,すべての人々の健康な生活を確保する」という理念に基づき,科学・技術に関する基礎研究から薬剤師業務にわたる総合的な薬剤学(システム薬剤学)に大きく貢献した者に不定期に授与されます.

栄えある第1回の受賞者には,当学会名誉会長の永井恒司先生が選出されました.永井恒司先生は「真の薬の科学と職能の学会」の構築を目指して,日本薬剤学会の発足に尽力され,薬剤学分野の科学・技術の発展に大きく貢献されました.さらに薬剤師ethicsに基づく完全医薬分業に精力を傾けておられ,まさに「薬師」と呼ぶのにふさわしい方として理事会において全会一致で推薦されたものです.

学会賞

血清アルブミンの構造・機能の解析とDDSへの応用
小田切優樹(崇城大学薬学部)

今回は公募のローテーションから大学所属者への授賞となります.

小田切優樹博士は,血清アルブミンに関する研究領域において世界的な第一人者であり,崇城大学DDS研究所の創設に尽力されるなど,薬剤学の研究推進に大きく貢献されています.また,教育者としても多くの優れた研究者・教育者・薬剤師を輩出し,学会活動,教育活動で多くの実績を積み上げて来られました.日本薬剤学会においても,学会発足以来,評議員として学会の発展に寄与されてきております.以上の理由から,選考委員会において全会一致で選出しました.

功績賞

吉野廣祐(神戸学院大学薬学部)

吉野廣祐博士は,企業製剤研究部門での研究活動及び大学での研究支援活動を通して,多くの製剤研究者を育成するとともに,数々の製剤技術・DDS技術を開発されてきました.企業人として技術の権利化を目指すとともに,科学雑誌で技術公開し,学術的にも貢献されております.日本薬剤学会においては,15年以上にわたって評議員を務められているほか,学会監事,製剤セミナー実行委員会委員長,製剤技術伝承委員長などの指導的な役割も務められ,本学会の発展に大きく貢献をされました.長年にわたる業績により,本学会から「製剤の達人」の称号も授与されております.以上の理由から,選考委員会において全会一致で選出しました.

奨励賞

関門トランスポーターによる薬物組織分布制御機構の研究
登美斉俊(慶應義塾大学薬学部)

登美斉俊博士は,組織関門における薬物透過機構に関して優れた研究業成果を挙げられ,これらの研究成果は薬剤による治療満足度の低い疾患領域における医療の進展に貢献することが期待されます.日本薬剤学会においては評議員,編集委員等として貢献され,AFPSの事務局担当など国際的にも活躍されています.以上の理由から,選考委員会において全会一致で選出しました.

細胞製剤の機能制御と動態解析に関する研究
樋口ゆり子(京都大学学際融合教育研究推進センター)

樋口ゆり子博士は、細胞製剤の開発に関して先駆性かつ独創的な研究に取り組まれ,その成果は多方面から高い評価を受けています.薬学領域にとどまらず分野を超えて活躍されており,薬剤学・DDS分野の将来を担う人材として期待されています.英語セミナー委員等として日本薬剤学会への貢献度も大きいものがあります.以上の理由から,選考委員会において全会一致で選出しました.

タケル・アヤ・ヒグチ記念栄誉講演賞

—当期設定なし—

タケル・アヤ・ヒグチ記念賞

奥 直人(静岡県立大学薬学部)

奥 直人教授はこれまで約40年に渡って,一貫してリポソームを用いたドラッグデリバリーシステムの基礎および開発研究を行ってこられました.PETを用いたリポソームの非侵襲的リアルタイム解析,腫瘍新生血管をターゲットとしたアクティブターゲティング,ポリカチオン修飾リポソームによるsiRNA等核酸医薬品のデリバリー,リポソームDDSによる脳虚血性疾患治療といったテーマの研究にいち早く着手し,優れた研究成果を収めてこられました.これらの成果はハイクオリティーな学術雑誌に原著論文として数多く発表されております.

奥教授は,評議員,年会実行委員等として日本薬剤学会に多大なる貢献をされてきました.この他,リポソームの国際会議であるLiposome Research Days Conferenceのアジア地区ディレクターとして長年にわたり運営にご尽力されるとともに,静岡DDSカンファランスの開催にも20年以上に渡って貢献されました.さらに,特筆すべきこととして,薬剤師教育を重点とした6年制薬学教育改革においてその基盤形成にご尽力され,薬学教育・薬剤師教育にも多大な貢献をされています.また,文部科学省や厚生労働省の委託事業や専門部会の幹事,全国のCBTやOSCEの実施・運営を担う薬学共用試験センターの試験統括委員長をお務めになっています.

このように,輝かしい研究業績に加え,薬剤学関連の社会活動での卓越したリーダーシップも含めて,本賞を受賞されるのにまさにふさわしい人物であると考えられます.

旭化成創剤開発技術賞

オパルモン錠の一包化達成のためのシクロデキストリンによる安定化と高速打錠生産
関屋 昇、山本政信、井上靖雄(小野薬品工業株式会社 製剤研究部)

プロスタグランジン(PG) 類は、高活性であり、かつ化学的に非常に不安定なため製剤化が極めて難しいとされています。しかるに、小野薬品工業は1988年に、プロスタグランジンE1誘導体であるリマプロストをα-シクロデキストリンで包接化して安定化させ世界で初めての循環器分野におけるPGE1誘導体の経口製剤を開発しましたた(オパルモン錠)。しかしながら、本製剤はアルミ包装では安定性が確保されたもののPTP包装では安定性を確保できませんでした(第一代)。その後、処方検討によりPTP包装での安定性も確保できましたが、PTPから取り出した状態では分解が生じました(第二代)。

医療機関からは、本製剤の湿度に対する安定性のさらなる向上が強く求められました。この課題は、高吸湿性の多糖類(デキストラン)を製剤中に添加することでクリアされ、二代目の製剤の10倍もの期間(6週間)の安定性が確認されました(第三代)。

さらに、リマプロスト―α-CD包接体に添加剤としてβ-CDを配合すると、25℃75%RH条件下でも6箇月もの間安定な製剤を得ることができました。その結果、医療機関で強く要望されていた分包が可能となり、ボトル包装品を含む新製剤を開発することができました(第四代)。

以上、PG類の世界初の製剤化から常に患者さんと医療機関の目線に立ち、利便性に優れた製剤開発のためのLCM戦略として、26年間にわたる3回の処方変更を経て、一包化が可能な錠剤を開発し、実精算に対応した超高速打錠システムを開発した業績は高く評価され、本賞の授賞に極めて相応しいと判断されました。

旭化成創剤研究奨励賞

シクロデキストリンをはじめとする機能性物質との相互作用評価に基づく難溶性薬物の製剤化
小川法子(愛知学院大学 薬学部)

シクロデキストリンをはじめとする機能性物質との相互作用評価に基づく難溶性薬物の製剤化新薬開発において,難溶性薬物,特にBCSクラスⅡに分類される薬物にあっては,その溶解性の改善は製剤化に必須の課題です.候補者は薬物単体の溶解性改善以上に薬物と製剤中の添加剤との相互作用に起因する溶解性の改善が重要であるとの理念に基づき,相互作用の評価結果と製剤機能との関係を明らかにすることに取り組んでいます.添加物は,薬物分子と添加物分子が直接的に相互作用するものと,集合状態で相互作用するものとに分けて選択しています.前者の例としては,シクロデキストリン(CD)類による抗精神病薬クエチアピンの溶解性改善とCDとの包接複合体構造との関係を明らかにすると共に薬物の可溶化と粉末化に成功し,良好な製剤原末を得ています.後者では,両親媒性の高分子に着目し,新規高分子,Soluplus®やKolliphor®等を使用し,可溶化が固体分散体化によることを示しました.これを利用して,難溶性の抗がん剤,Sepacitabineの可溶化に成功し,この可溶化溶液の各種癌細胞毒性とマウスへの腹腔内投与により腫瘍効果を確認しました.更に,インドメタシンなどのモデル薬物を使用し,噴霧乾燥法や加熱熔融混練法により固体分散体を製造しました.調製法や処方の違いを考慮した薬物と添加物との相互作用と溶解性改善との関係を精査しつつあります.本研究は,難溶性薬物の溶解性改善を製剤中の添加物との相互作用を定量的に記述する方法を見出して難溶性薬物の製剤化法の体系化を目指した非常に意欲的な研究でその成果には多大な期待が寄せられています.以上の成果とその将来性は奨励賞に相応しいものと高く評価されております.

パーコレーション理論およびF-CAD (Formulation-Computer Aided Design)を用いた難水溶性薬物の錠剤処方設計
木村 豪(塩野義製薬株式会社 CMC開発研究所 製剤研究センター)

近年,新しく創生された薬物の40%以上が難水溶性であり,合理的,かつ迅速に製剤設計することが求められています.難水溶性薬物の製剤(特に錠剤)や口腔内即崩壊錠の設計において,崩壊剤の選択とその添加量(濃度)は得られる製剤の機能(崩壊性)を決める重要パラメーターです.これらの錠剤の崩壊時間を最小にする崩壊剤の臨界濃度の決定は,通常,技術者の知識,技術と経験に基づいたデータの蓄積に依存した多くのトライアル実験によりなされています.これに替わる科学的理論に立脚した設計法を開発することがICHやFDAのガイダンスで提唱されています.候補者は,パーコレーション理論を応用して本命題の解決を試みています.パーコレーション理論は,ある系内で無限クラスターの形成により,系に大きな変化が生じることの予知に関わっています.ここでは,錠剤の崩壊(系の変化)は,錠剤への水の浸透により決まるとし,水が浸透するチャンネル(水路)をクラスターとしています.本理論から3次元格子の臨界体積分率0.16±0.01(v/v)は、3成分系の錠剤の崩壊剤の臨界濃度を見出すのに有用であることを示しました.本理論および3次元セルラ・オートマタに基づいたF-CAD(コンピュータ支援処方設計ソフト)により,初めて錠剤の崩壊時間のシミュレートが可能になりました.F-CADを用いた in silico 実験により製剤開発を合理的に短時間で行うことができます.以上の研究成果は,科学的理論に立脚した製剤設計法を提示しており,レギュラトリーサイエンスの観点からも高く評価され,本賞の授賞候補に相応しいものと判断しました.

永井記念国際女性科学者賞

Margareta Hammarlund-Udenaes(Uppsala University)

Margareta Hammarlund-Udenaes博士は,薬物の脳内移行・分布に関して多くの優れた研究業績を挙げられ,薬剤学の学術的発展に多大に貢献して来られました.また,スウェーデンにおける臨床薬剤学のパイオニアとして,その教育プログラムの創設・運用に実績を挙げられています.国際誌のEditorや国際会議のChairを務めるなど国際的なリーダシップを発揮されており,今後さらなる活躍が期待される女性研究者であります.以上の理由から,選考委員会において全会一致で選出しました.

なお,Margareta Hammarlund-Udenaes博士は,併せて国際フェローの称号と盾を受章しております.

優秀論文賞

Y. Kaneo, K. Taguchi, T. Tanaka, S. Yamamoto
Nanoparticles of hydrophobized cluster dextrin as biodegradable drug carriers: solubilization and encapsulation of amphotericin B

J. Drug. Deliv. Sci. Tech., 24(4), 344-351 (2014)

高度に分岐した環状のデキストリンであるcluster dextrinを用いて難溶性薬物(アムホテシリンB, AmB)の溶解性向上,薬物送達効率向上,さらにはAmB由来の溶血毒性改善を達成し得る生体適合性の高い薬物送達キャリアの素材を新規に合成し,丁寧な実験検討によってその有用性を明らかにしている.新規性,独創性,洞察力の点において優れており,実用化されれば,患者のQOL向上に大きく寄与すると考える.

百 賢二, 本間真人, 鈴木嘉治, 神林泰行, 幸田幸直
化学・放射線療法誘発性の口腔粘膜炎に用いるインドメタシン噴霧製剤の安定性

薬剤学, 74(3) : 211-216, 2014

本論文で取り上げられている院内製剤は,近年ますます臨床現場で重要視される薬剤師の特徴的な職能の1つである.医療機関内で使用される院内製剤については調製から使用までの期限が短いケースが多く,その使用期限の設定に根拠がないものが多かった。そうした中,本論文はインドメタシン噴霧製剤の安定性試験を行い,有効期限設定の根拠となるデータを出しており,他の薬剤師、薬学生へ医療機関における研究展開方法の一方法を示した点で,価値ある論文と考える.

創剤特別賞

受賞者なし

国際フェロー称号

Margareta Hammarlund-Udenaes(Uppsala University)

製剤の達人称号

  • 脇山尚樹(第一三共プロファーマ(株))
  • 山田昌樹(武州製薬(株))
  • 上村 稔((株)畑鐵工所)
  • 高橋嘉輝(沢井製薬(株))
  • 水本隆雄(アステラス製薬(株))
  • 福居篤子((株)龍角散)
  • 宮嶋勝春(武州製薬(株))
  • 南 秀実(第一三共(株))
  • 清水隆弘(アステラス製薬(株))