永井恒司名誉会長が厚生労働省医薬食品局と薬学教育協議会に国際標準医薬分業の必要性について文書を提出されました

厚生労働省医薬食品局宛
「貴簡「薬食総発0914第3号」及び「薬食安発0914第2号」に示される事例以外に関するお尋ね」

平成23年10月12日

厚生労働省医薬食品局総務課長 宮本真司殿
厚生労働省医薬食品局安全対策課長 俵木登美子殿

(社)日本薬剤学会名誉会長 永井恒司

貴簡「薬食総発0914第3号」及び「薬食安発0914第2号」に示される事例以外に関するお尋ね

謹啓 時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

平成23年9月14日付けの貴簡を一般社団法人薬学教育協議会代表理事を通じて拝受しましたが、私は同協議会理事であるとともに、薬剤学研究者の立場から極めて関心があり、同学の者の意見も聞いて、下記のお尋ねを致したくご教示をお願い申し上げます。

なお、先般の日本薬学図書館協議会会長永井恒司のお尋ねは、主に情報管理担当者である薬学図書館員の立場からのお尋ねであります。

貴簡「薬食総発0914第3号」及び「薬食安発0914第2号」に示される事例は、薬局の薬剤師による調剤(以下薬剤師の調剤と呼びます)関連のヒヤリ・ハットの事例でありますが、わが国では医師法第22条及び歯科医師法第21条の例外規定により、医師・歯科医師の調剤(以下“例外調剤”と呼びます)が認められております。つきましては、

  1. 例外調剤と薬剤師の調剤の安全性を比較し、前者が後者と同等以上であることの保証がなければ、国民の生命と健康を守ることは不可能であり、薬剤師の調剤のみを認める欧米型の医薬完全分業の実施(例外規定の削除)に改変すべきと考えますが、いかがでしょうか。
  2. 調剤は薬剤師固有の職能であって、薬剤師がこれに携わることが国民の生命と健康を守る上で最適であり、薬剤師の調剤のみを認める欧米型の医薬完全分業の実施(例外規定の削除)に改変すべきと考えますが、いかがでしょうか。

以上

薬学教育協議会宛

「薬学教育6年制卒業の薬剤師の誕生を機に薬学教育協議会が医薬完全分業を推進することの提言」

平成23年10月12日

一般社団法人薬学教育協議会

代表理事 望月正隆殿

一般社団法人薬学教育協議会 理事 永井恒司

薬学教育6年制卒業の薬剤師の誕生を機に

薬学教育協議会が医薬完全分業を推進することの提言

筆者は1995年以来、熊本大学薬学部新入生の薬学概論の講義の他、何回かの公開講演会で、わが国も欧米先進国並みに、国際標準医薬分業(完全分業)を実現すべきことを強調してきました。これは、新規な制度をつくるのではなく、国際的に当たり前のことを当たり前に実施することで、薬学教育と薬剤師業務についても先進国に加わることであります。しかし、いまだに具体的な進展はありません。

現在、わが国では医師法・歯科医師法の例外規定(注)により“医師の調剤”が認められております。この制度は、薬学を修めなくても、医師であれば特別の規制もなく調剤できることを認める極めて前近代的で、薬科大学の存在を否定するものであります。この制度が生まれた122年前はともかく、医薬の安全性が厳しく問われる現代においては決して容認できるものではありません。当協議会には、薬学教育の立場から、是非とも率先してこの例外規定を削除すべく、強力な活動を展開されるよう提言致します。

時あたかも6年制薬学教育の最初の卒業生が来年世に送りだされます。この6年制薬学教育制度は、“国民の生命と健康を守る”ために国会において、全党一致で賛成・決定されて生まれました。この新制度の薬剤師の誕生に連動させて、上記例外規定を削除した医薬完全分業を推進することは極めて有意義であります。

当協議会がこの国際標準医薬分業の実現に向けて、充分な実行性を持って強力に推進するよう提言する次第であります。

以上

注)医師法第22条、歯科医師法第21条及び薬剤師法第19条を付記します。赤い部分(本ウェブサイト上ではイタリック太字)は例外規定です。

医師法第22条

医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当たっている者に対して処方せんを交付しなければならない。

ただし、患者又は現にその看護に当たっている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出でた場合、及び次の各号(省略)の一に該当する場合においては、この限りではない。

歯科医師法第21条

歯科医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当っている者に対して処方せんを交付しなければならない。

ただし、患者又は現にその看護に当っている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号(省略)の一に該当する場合においては、その限りでない。

薬剤師法第19条

薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない。

ただし、医師若しくは歯科医師が次に掲げる場合(省略)において自己の処方せんにより自ら調剤するとき、又は獣医師が自己の処方せんにより自ら調剤するときは、この限りでない。