2017年度各賞受賞者一覧

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学会賞

医療薬剤学に基づく医薬品適正使用と実践的製剤開発
佐々木 均(長崎大学病院)

佐々木均博士は,薬物物性と動態モデルを基盤とする局所投与製剤の開発から研究活動をスタートし,大学病院薬剤部長・教授としての現在,薬剤学と医療を結ぶ医療薬剤学研究・臨床研究を進めている.約40年間の研究活動を通して,常に医療に新しい展開をもたらしている.原著論文は和英文総数で280報を数え,病院薬学賞やFIP Fellow Awardを既に受賞し,その業績は国内外で高く評価されている.後進の育成にも積極的で,教育者としても第一線で活躍している.本学会では,評議員,理事,年会長のポストを歴任し,薬剤学及び本学会の発展に対して多大に貢献している.

以上の理由から,選考委員会において全会一致で選出した.

功績賞

金尾義治(福山大学薬学部)

金尾義治博士は,私学で一貫して薬剤学教育に従事している.生物薬剤学と薬物動態学を特に専門とし,同分野の教科書や問題集を多数執筆するとともに,薬剤師国家試験の委員も務めている.薬剤師国家試験において薬剤学は主たる分野の1つであり,国家試験合格を目指した薬学生に対する教育への貢献は大きい.本学会では評議員を務め,発表数は36件,薬剤学教育・研究並びに本学会の発展に対して多大に貢献している.

以上の理由から,選考委員会において全会一致で選出した.

奨励賞

消化管生理機能の定量的解析に基づいた薬物吸収性予測法の確立
白坂善之(東京薬科大学薬学部)

白坂善之博士は,機能性タンパク質の存在や生理機能など,吸収に影響する消化管の諸因子を統合的に解析して吸収予測する手法を展開している.英語原著論文49報,そのうち筆頭が21報であることから,自ら研究を主導している様子がうかがえる.ワシントン大学での3年間の武者修行から帰国して2年目,今後の活躍が期待される.英語セミナー委員,フォーカスグループ委員,薬剤学編集委員,評議員と本学会への貢献は多岐に渡り,中でも大学院生が年会プログラムを企画するSNEPEE立ち上げの貢献は大きい.

以上の理由から,選考委員会において全会一致で選出した.

固体NMR法による製剤中の薬物分子状態の解明
東顕二郎(千葉大学大学院薬学研究院)

東顕二郎博士は,分子製剤学に基づく難溶性薬物の溶解改善に取り組み,各種製剤技術を開発するとともに,固体NMRを用いて薬物と添加物との相互作用を解明して,製剤工学の発展に貢献している.固体NMRに関して薬剤学分野で存在感を放っており,今後,固体NMR以外の研究分野でも成果を挙げていくことが期待される.英語原著論文66報,そのうち筆頭(筆頭相当を含む)は18報である.本学会では,英語セミナー委員及び物性FG広報委員として,学会活動を支援している.

以上の理由から,選考委員会において全会一致で選出した.

タケル・アヤ・ヒグチ記念栄誉講演賞

—当期設定なし—

タケル・アヤ・ヒグチ記念賞

山本 昌(京都薬科大学)

山本昌教授は,1980年代後半から約30年に渡り,一貫してペプチド・タンパク性医薬品を含む難吸収性薬物の経皮・経粘膜吸収改善に関する研究を,生物薬剤学およびDDSの分野から遂行し,数多くの優れた研究成果を挙げてこられた.代表的な研究として,吸収促進剤やタンパク分解酵素阻害剤などの製剤添加物の併用,あるいは薬物分子の化学修飾によるペプチド・タンパク性医薬品の消化管吸収改善,さらに肺や大腸などの様々な粘膜組織からのペプチド・タンパク性医薬品の吸収特性の検討とデリバリーシステムの開発などが挙げられる.また2008年以降は,対象薬物を非ペプチド性薬物にも拡大し,BCS class IVと考えられる薬物の経粘膜吸収性の向上に関する研究に展開され,優れた成果を挙げられている.さらに近年では,マイクロニードルの開発にも注力されており,貼るだけで難吸収性薬物を経皮吸収させる次世代型経皮吸収製剤の開発に成功され,この研究成果に基づいて,2016年の大学発ベンチャー表彰で,新エネルギー・産業総合開発機構理事長賞を受賞されるに至っている.

また,日本薬剤学会での活動については,山本教授は,長年にわたり評議員を務めているほか,様々な委員会活動ならびに学会賞の選考委員なども歴任して,本学会に多大なる貢献をされてきた.さらに,特筆すべきこととして,最近では複数の薬剤学関連の教科書や,ご専門分野の専門書を編集者としてまとめ,薬剤学分野の基礎教育や啓蒙活動にも多大に貢献されておられる.

このように,ペプチド・タンパク性医薬品のデリバリー研究を中心として30年以上日本の生物薬剤学領域を先導されてこられた卓越した研究業績に加え,薬剤学関連の社会活動における多大なる功績も含めて,本賞を受賞されるのにまさにふさわしい人物であると考える.

旭化成創剤開発技術賞

今期受賞者なし

旭化成創剤研究奨励賞

がん性皮膚潰瘍臭改善薬メトロニダゾール外用製剤の市販化に至るまでのエビデンス構築
渡部 一宏(昭和薬科大学臨床薬学教育研究センター実践薬学部門)

受賞者の渡部一宏博士は,乳がんの終末期で多く見られるがん性皮膚潰瘍臭改善を目的とした院内製剤メトロニダゾール外用製剤の製剤研究を実施し,その成果として多数のエビデンスの構築をしてきた.更に,同氏は,メトロニダゾール外用製剤の市販化の要望を日本緩和医療学会の支援を得て,厚生労働省「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」に要望書を提出した.検討の結果,メトロニダゾール外用製剤の市販化に向けた開発要請がガルデルマ社になされた.同氏は,ガルデルマ社と共同で国内第三相臨床試験を実施した.その結果,平成26年12月に医薬品製造販売承認取得となり,平成27年5月に国内初のがん性皮膚潰瘍臭改善薬「ロゼックスゲル0.75%」として発売に至った.同氏は,院内製剤であった,メトロニダゾール外用製剤を臨床現場で調製し患者に適応してきたのみならず,薬剤師として製剤研究及び臨床研究を実施し多数のエビデンスを構築したことが評価される.また,同氏の本製剤の市販化に向けた社会活動は,テーラーメイド医療の実現に病院薬剤師としての職能を発揮しその専門性を強くアピールしたものであり,奨励賞に値する.

自己微小乳化製剤のハイスループットフォーミュレーションスクリーニングシステムの開発
酒井 憲一(中外製薬(株)生産工学研究所)

本研究は,自己微小乳化製剤(SMEDDS)の処方設計を迅速かつ効率よく行うことをコンセプトとしたハイスループットフォーミュレーションスクリーニング(HTFS)システムの開発に関するものである.HTFSシステム開発のために,迅速かつ効率的な処方調製法と物性評価法を新規に開発している.試料調製法としては,添加剤と薬物を有機溶媒に溶解しロボット液体分注機を用いて分注することで96ウエルのマイクロプレート上に多処方を少量で迅速に調製する方法を開発した.物性評価法としてエマルションの粒子径と相安定性については,迅速化可能な濁度法を開発し,処方内薬物含有能測定法については,有機溶媒懸濁液分注溶解度法を考案した.以上により,従来の10倍以上のスピードと高い効率性で薬物高含有処方のSMEDDSの設計を可能にした.本研究は,難水溶性新薬の早期開発段階においての製剤化処方検討を可能にするもので新薬開発の短期化に貢献するものであり奨励賞に値する.

旭化成研究助成金

ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名イナビル)の粉末吸入剤の製剤開発
井上 和博(代表)、荒井 宏明、姫野 貴和(第一三共(株)製薬技術本部 製薬技術研究所)

ラニナミビルオクタン酸エステルは、プロドラッグデザインにより、一回の吸入投与でインフルエンザ感染症に治療効果を発揮する薬剤として創製された。この特徴を活かすためには、一回の試行で確実に肺内に必要投与量が吸入され、吸収される粉末吸入剤の開発が必須である。そのため、吸入デバイスと粉末の粉体物性との間に高度なマッチング性が要求された。デバイス開発、製剤開発、スケールアップのチームが連携して、短期間で、製剤化を達成した。不測な新型インフルエンザの発生に対して、早期の新規抗インフル薬開発の社会的要請に応えることに大いに貢献した。本粉末吸入剤は、肺機能の優劣に関係なく、幅広い年齢層で問題なく吸入できることが、市販後の使用成績調査で確認されている。更に2016年には、単回投与の適用が治療だけでなく、予防にも拡大され、医療ニーズに応える理想的な製剤開発例として評価されており、本研究は、開発技術研究助成に値する。

配合剤開発のための合理的な製剤設計
福田 誠人(武田薬品工業(株) フォーミュレーション・デベロップメント)

本研究は、患者の利便性やアドヒアランス向上、更には医療費の抑制にも貢献できる配合剤の合理的設計法の開発に関するものである。配合剤開発にあたってクリアすべき課題は、安定性に勝れ、生物学的同等性を確保した製剤を短期間に開発することである。配合する薬剤が一方の薬剤の溶解性を低下させたり、相互作用を及ぼす場合には、薬剤間で時間差の溶出を持たせる設計や、両薬物を隔離する積層錠剤を開発し、各層の溶出速度を調整することにより、生物学的同等性を確保する精密製剤設計法が開発された。これ等の設計法をベースとした合理的な製剤開発法を確立し、50以上の配合剤を短期間に開発して医療現場に供給した成果は開発技術研究助成に値する。

QbDに基づく固形製剤開発の実践とPAT基盤技術の構築
土肥 優史、百瀬 亘(アステラス製薬(株) 技術本部 技術推進部)

本研究は、QbDに基づく製剤開発の実践と、PAT技術の基盤を構築したものである。候補のグループは、QbDに基づく医薬品固形製剤の開発を実践し、中間品重要特性に着目したデザインスペース申請を適用した。中間品重要特性はNIR(近赤外吸収スペクトル測定法)をベースとしたPAT基盤技術を構築して継続的にモニタリングし制御された。混合工程では、NIRによるモニタリングにより混合終点を決定し、スケールアップにも対応できる工程管理技術を開発した。更には、テラヘルツイメージング技術を用い、フィルムコーティング工程における重要品質特性(表面粗度、引張強度、高湿度下での割れ)を非破壊で予測できるシステムを開発した。以上のように、新規PAT 技術開発を進めながら、自社のRTRT申請を成功させただけでなく、新しい品質管理や品質保証の重要性を製薬業界に普及しリードをしている。かかる成果は、創剤開発技術研究助成に値する。

永井記念国際女性科学者賞(国際フェロー称号の授与)

Dr. Jennifer Dressman(Johann Wolfgang Goethe University)

Dressman教授は,Victorian College of Pharmacy(オーストラリア)を卒業後,Takeru Higuchi先生の指導下,カンザス大学で博士号を取得した.その後,ミシガン大学での助教,准教授を経て,1994年,ゲーテ大学の教授に就任し,本日に至る.Dressman教授は,薬剤学の主たる課題の1つである経口剤の開発に不可欠な製剤からの薬物溶出と消化管吸収に関する研究で数多くの成果を挙げ,同成果は国際的に高く評価されている.さらに研究成果をレギュレーションに展開し,世界各国の医薬品開発の効率化等にも多大に貢献している.日本薬剤学会での活動は少ないが,多くの日本人留学生を指導して本邦の薬剤学の発展に間接的に寄与している.また,AAPSやCRSにおいて,研究面にとどまらず教育面でも多大に貢献し,後進の指導に務めている.世界的に見て,Dressman教授は薬剤学の発展に顕著な業績を挙げており,今後の女性研究者の目標となる研究者である.以上の理由から,選考委員会において全会一致で本賞授賞者に選出した.

優秀論文賞

Absorption improvement of sepantronium bromide (YM155) by aminoalkyl methacrylate copolymers in in situ intestinal tracts of mice
Takuya Ishii, Naoki Kobayashi,Atsushi Maeda, Hiromu Kondo, Kazuhiro Sako,Shizuo Yamada, Yoshiyuki Kagawa

J. Drug. Deliv. Sci. Tech., 27, 1-8 (2015)

正荷電薬物の吸収に対するムチン層の影響について精査しており,正荷電高分子添加剤の吸収促進効果を説明している.企業の研究でありながら汎用的な技術に繋がる丁寧な研究であり,今後の発展が期待されることから優秀論文に相応しい内容であると判断した.

Thermal behavior and functional group interaction of lipids extracted from the stratum corneum
Shunichi Utsumi, Yasuko Obata, Kozo Takayama
星薬科大

J. Drug. Deliv. Sci. Tech. 35, 200-206 (2016).

本論文は,シンクロトロンX線回折とATR-FTIRを用いて角質層中の細胞間の脂質の極・疎水性の部位の特性を検討している.外用剤の角質層透過メカニズムを解明に導く基礎的研究で優秀論文として相応しいと考える.

創剤特別賞

受賞者なし

国際フェロー称号

Jennifer Dressman(Johann Wolfgang Goethe University)

製剤の達人称号

  • 箱守正志 (アステラス製薬(株))
  • 檜山行雄 (国立医薬品食品衛生研究所)
  • 夏山 晋 ((株)パウレック)
  • 須藤浩孝 (アステラス製薬(株))
  • 川崎 誠 (ファルマ・ソリューションズ(株))
  • 大島英彦 (ホスピタルカンパニー)
  • 馬場一彦 (大鵬薬品工業株式会社)
  • 森島健司 (参天製薬)
  • 丸尾 享 (帝人ファーマ(株))